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平成24年予備 刑法答案例

※内容の正確性は保証しません。参考程度にご覧ください。

 

平成24年予備 刑法

第1 甲の罪責

1 Y車後部にX車前部を衝突させ、乙に頸部捻挫の怪我を負わせた行為に傷害罪(刑法(以下法名省略)204条)が成立するか。

(1) まず、甲の行為により、乙は頸部捻挫の怪我を負っており、生理的機能を障害したといえるから、「傷害した」といえる。

  また、乙に傷害結果を生じさせるにつき故意(38条1項)もある。

  したがって、傷害罪の構成要件に該当する。

(2) もっとも、乙は傷害結果が生じるにつき同意をしていたから、違法性が阻却されないか。

ア そもそも、違法性の実質は、社会的相当性を逸脱した法益侵害又はその危険性にある。そこで、①被害者の承諾があり、②承諾を得た動機・目的、侵害行為の方法、結果の重大性等諸般の事情に照らし、当該行為が社会的相当性を有する場合には違法性阻却を認めてよいと解する。

イ 本件では、確かに乙は自身が軽度の頸部捻挫を負うことにつき承諾しているし、乙に対する侵害結果も頸部捻挫にとどまっている。しかし、甲が承諾を得た目的は、保険会社から保険金をだまし取ろうとするもので不当なものである。さらに、侵害行為も車を後部から衝突させるというもので危険性が高い。

ウ したがって、甲の行為が社会的相当性を有するとはいえず、違法性は阻却されない。

(3) 以上より、甲の上記行為に傷害罪が成立する。

2 AにY車前部バンパーを接触させて転倒させ、骨折の怪我を負わせた行為に傷害罪が成立するか。

(1)  甲は上記行為により、Aに手首骨折の怪我を負わせているから、生理的機能を障害したといえ、「傷害した」にあたる。

(2) もっとも、甲がX車をY車に衝突させた際、乙以外の者に怪我を負わせることを認識していなかったから、故意(38条1項)がないのではないか。

ア そもそも故意責任の本質は、規範に直面したにもかかわらず、あえて行為にでた反規範的人格態度に対する道義的非難にあるところ、かかる規範は構成要件の形で一般人に与えられている。そこで、行為者の主観と客観が同一構成要件内で符合する限りで、故意を認めてよいと解する。

  そして、同一構成要件内で故意を抽象化する以上、発生した結果の分だけ故意犯が成立すると解する。

イ 確かに甲は、乙に対する傷害結果についてのみ認識しており、Aに傷害結果を生じさせる点については認識していなかった。しかし、およそ「人」に対する傷害結果を認識していた以上、主観と客観が同一構成要件内で符合しているといえる。

ウ したがって、故意が認められるから、甲の行為にAに対する傷害罪が成立する。

3 保険会社の担当者Bに対し、保険金の支払いを請求した行為に詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立するか。

(1) まず、「欺」く行為とは、財物交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいうところ、偽装事故に基づいて保険金の支払い請求がなされた場合には、支払いを拒絶することが可能であるから、偽装事故であるか否かは重要な事項といえる。

  したがって、この点について偽る行為は「欺」く行為にあたる。

(2) もっとも、保険会社の調査の結果、事故状況について不審な点が生じ、保険金が支払われていないから、Bは錯誤に基づく処分行為を行っていない。

(3) したがって、甲の上記行為に詐欺未遂罪が成立する。

4 以上より、甲の行為に①乙に対する傷害罪、②A対する傷害罪、③詐欺未遂罪が成立し、①と②は社会見解上一個の行為であるから観念的競合(54条1項)となり、これと③は併合罪(45条)となる。

第2 乙の罪責

1 まず、乙は甲と共謀して本件事故を発生させているので、自己に対する傷害罪の共同正犯(60条)が成立しないかが問題となるも、そもそも自己を傷害する行為は不可罰であるから、傷害罪にいう「人」とは行為者以外の他人を指すと解すべきである。

  よって、行為者たる自己に傷害結果を生じさせたに過ぎない乙に傷害罪は成立しない。

2 また、Aに対する傷害罪も成立しない。「人」が行為者以外の他人を指す以上、Aに対する侵害結果を認識していない乙には故意がないからである。

3 乙が甲と「共同」して保険金の請求等を行った点については、詐欺未遂罪の共同正犯が成立する。

4 したがって乙の行為に、詐欺未遂罪の共同正犯が成立する。

第3 丙の罪責

1 丙が、甲乙と共謀して、乙に傷害結果を生じさせた点に傷害罪の共同正犯が成立するか。

(1) 丙は実行行為を分担していないが、共同正犯が成立するか。共謀共同正犯の肯否、およびその成立要件が問題となる。

(2) そもそも、60条の文言解釈として、2人以上の者が「共同して」、その中の誰かが「実行した」と読むことができるし、共同正犯の処罰根拠たる相互利用関係に基づく特定の犯罪の実現も同様に認められるから、共謀共同正犯は肯定すべきである。

  そして、共同正犯は一次的に責任を負うものである以上、これが認められるためには、①共謀、②正犯意思、③共謀に基づく実行行為が必要である。

ア まず、甲の一連の保険金詐取計画につき丙は承諾しているから共謀はある(①充足)。また、丙は自己が運転して、Y車に衝突させることに同意しているし、保険金も受け取ることになっていたのだから利益の帰属も認められ、正犯意思が認められる(②充足)。そして、かかる共謀に基づき、甲と乙が実行行為を行っている(③充足)。

イ したがって、丙に共謀共同正犯が成立し得る。

(2) もっとも、丙は「俺は抜ける。」と連絡し、実行行為を行っていないのであるから、共謀からの離脱が認められないか。

ア この点、広義の共犯の処罰根拠は自己の行為が結果に対して因果性を及ぼした点にある。とすれば、自己の行為の因果性が断ち切られたといえれば、共謀からの離脱は認められると解する。

イ 本件において、確かに丙は実行の着手前に、「俺は抜ける。」と連絡し、離脱の意思を表明したものの、その後一切の連絡を絶っており承諾を受けていない。

  しかし、丙は本件計画を立てる上で主導的な立場にいたわけでもなく、上記離脱の意思も実行の着手前に行われている。

  そうだとすれば、上記離脱の意思の表明により、心理的因果性は断ち切られたといえ、共謀からの離脱が認められる。

ウ よって、乙に対する傷害罪は成立しない。

2 同様に、Aに対する傷害罪、Bに対する詐欺未遂罪も成立しない。

3 したがって、丙は何らの罪責も負わない。

以上

 

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