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平成23年予備 刑訴法答案例

平成23年度 予備試験 刑事訴訟法

設問1

1.罪名について

(1) 本件捜索差押許可状(以下「本件令状」という)は、罪名として「覚せい剤取締法違反」と記載されているのみで、罰条についての記載がない。このような記載にとどまる令状であっても適法か。

(2) そもそも、罰条の記載は、憲法上の要請ではない(憲法35条参照)。

また、捜索差押許可状(刑事訴訟法(以下法名省略)218条1項)には「罪名」(219条1項)の記載が要求されているにとどまるところ、このように捜索差押許可状の記載事項を「罪名」にとどめた趣旨は、捜査の機密保持や被疑者のプライバシーに配慮する点に求められる。

  かかる趣旨に鑑みれば、捜索差押許可状に記載する「罪名」については、罰条についての記載がなくとも適法と解するべきである。

(3) したがって、本件令状は罪名記載の観点からは適法である。

2.差し押さえる物について

(1) 本件令状は、差し押さえるべき物として「金銭出納簿,預金通帳,日記,手帳,メモその他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」といったように、概括的記載がなされている。このような概括的記載のなされた令状であっても適法か。

(2) そもそも、憲法35条を受けて219条1項が差し押さえるべき物の特定を要求した趣旨は、捜査機関に許可した権限の範囲を明確にして一般令状を禁止するとともに、被疑者に受忍限度を明示する点にあるところ、かかる趣旨に鑑みれば、個別具体的な特定がなされることが望ましい。

  もっとも、捜索・差押えは捜査の初期段階で行われることが多く、物が具体的に判明しないことも多い。それにもかかわらず、あまりに厳格な特定を要求すると、捜査機関に不可能を強い、かえって被疑者・参考人の取調べ中心の捜査を助長することにもなりかねない。

  そこで、ある程度包括的な記載でも許されると解する。具体的には、「一切の物件」といったような記載があっても、①「本件に関係あり」という限定がなされており、②具体的例示が伴っていれば適法と考える。

(3) 本件では、「金銭出納簿,預金通帳,日記,手帳,メモその他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」といった記載がなされているところ、「本件に関係あり」という限定はなされているし(①充足)、具体的例示も伴っている(②充足)。

(4) したがって、本件令状は、差し押さえる物の記載の観点からも適法である。

設問2

1.差し押さえようとしているのは「メモ」であるから、令状記載の差し押さえる物の例示には該当する。もっとも、物の差押えについては「正当な理由」(憲法35条)すなわち、対象物が被疑事実と関連性を有することが必要であるところ、本件ではこのような関連性が認められるか。

(1) 本件で甲の被疑事実は「平成23年7月1日にH市内において、乙に対して覚せい剤10グラムを30万円で譲渡した」事実であるが、本件メモの内容たる事実は「6月30日」に「250万円」で「丙から覚せい剤100グラム購入」した事実であり、被疑事実を直接証明するものではない。

  しかし、他者に覚せい剤を譲渡するためには、必然的に事前に覚せい剤の入手が必要になるところ、「6月30日」に覚せい剤を入手し、「7月1日」に乙に譲渡したと考えても矛盾しない。

  また、本件メモによれば、丙から覚せい剤を10グラムあたり25万円で入手しているところ、物の転売をする際には、入手価格よりも転売価格の方が高価であることが通常であることに鑑みれば、甲が25万で入手した覚せい剤を「30万」で転売していると考えても不自然ではなく、甲が覚せい剤の仲介人であることを推認させる。

  よって、甲の被疑事実と本件メモの間に関連性が認められる。

(2) したがって、本件メモの差押えは適法である。